2018年私的ドラマエミー賞

    今年はドローンという新型飛行物体があちこちのドラマで使われたので、私も慣れない手つきながら(空想の中で)ドローンを使ってドラマの世界をみたい。まず静岡の空へ。

 

   まず辿り着いたのは静岡のような海辺と高速道路が寄り添う病院の前。その玄関から勢い良く思いつめた顔のナース…いや帽子がナースキャップではないので見習いナースか?彼女が自転車を漕いで坂道の果てにある同世代の少女の家に向かう。彼女は少女自らの手で産んだ子を捨てた少女の態度が許せなかのような怒りの表情をしていた。彼女の手は透明なゆりかごたちを幾千も大人から大人に渡した悲しみとか、生まれつきの止められない衝動もあったのだろうか。とにかく彼女は坂道を自転車で必死に漕いでいた。

   場面は変わり、東京のとある街角。男が鬼の形相で不動産屋の自宅へ走ってゆく。その形相はまるで現代の「仇討ち」そのものある。彼の婚約者を"殺した"奴の家だと確信したのだろうか。そして話は変わるが彼は一匹狼の監査医である、そのUDIには真っ直ぐな女性がいた。彼女には頼りなさげな頼れる上司同僚後輩がいた。彼は彼女の真っ直ぐさに動かされ数々の迷宮事件の結び目を解いてゆく。けれど彼はすべて遠ざけたった1人で復讐を完遂しようとしている。そんな彼にアンナチュラルだよと動く彼女は後輩のメガネ君を向かわせる。はたして間に合うだろうか?その前に狡猾な人殺しが警察に(生き残るために)自首するのを彼女は目撃してしまうのだが。

    いつの間にか満月の夜になった。そしたら空から邪神エシゼルファが下町に舞い降りてきた。邪神なので当代一のイケメン俳優な顔ならいいが、残念ながら予算の都合上いや世の常として商店街の酒屋の横島の大将だったし、そもそも予算の都合上いや世の常を言うなら満月の空から舞い降りる某アニメ風演出なんて無理だから稲荷から飛び出してたが。そんな時をかけるマチ子は邪神たちの復讐にどう立ち向かえば良いのか?傍から見れば商店街の寄り合いに見えるから一発芸でも演ればいいって?そんな一発芸では…。ともかく邪神は満月の下町に舞い降りた。

    夜が明けて、再び都会の空へ。喫茶店から病院に向かう赤と春色のワンピースを着た少女が悲しげな顔で大病院に向かってゆく。彼女には3度「家族」がいた。1度目は育児放棄、2度目はより残酷な虐待の中、そして病院に向かうその日3度目の「家族」はあらゆる言葉と温もりを与えながら偽札の紙吹雪のなかで崩壊してゆく。そして病院では1度目の恋すなわち長い初恋を彼を救うために慣れない嘘をついて終わらせるつもりで向かうのだろうか。とにかく彼女は悲しげな歩みで病院の中へ吸い込まれてゆく。

    せつない思いで最後富士山が見える高台へ戻ってゆく。そこにいたのは親子3人と付き添いの外国人男性のような、それは見かけだけ、実際は父親と娘、元母親、そして弟の夫が娘の笑顔と共に観光している姿である。その父親はカナダで死んだ双子の弟に複雑な、いやはっきりとした嫌悪感を弟に無自覚に与えてしまっていた。そんな終わった過去に見えないがんじがらめなそんな兄を弟が愛したおおらかな義理の弟は元気が取り柄の兄の娘と一緒にほぐし解こうとしてるかのように優しいまなざしを弟と同じ顔した義兄に向ける。そんな「家族」の記念写真を撮っている。

 

    今年のドラマは良い朝ドラの可能性を慣れないSNS発信によって脚本家が全部台無しにしてしまったり、ある俳優の酒癖の悪さによってNetflixでコツコツ撮り溜めた芸人の物語を一瞬でフイにされて一年かけて今年撮り直したり、主役が意に沿わぬ形での急逝で最終回のドラマ撮影現場は悲しみのてんやわんやですよに陥ったり、「7人の孫」のお手伝いさん役から半世紀もドラマに捧げた癖のある老女優とレフトとん平が天に召されたりと、平成30年も毎年のお決まりの「激動の年」であった。もう平穏無事なんて望めなさそうだな。

    そしてドラマは沈鬱と停滞と衰退の時代の予兆を私たちの前に提示してくれる。ある人は力の抜けた笑顔で「幸せなら手をたたこう」を鼻歌で虚ろに歌い、ある人は一瞬の怒りをSNSでぶちまけて英雄気取りを行ったせいで結果すべてを失い、ある人は目の前の誠実を貫きすぎたせいで最後6人の女たちに取り囲まれて本当の愛を失う羽目となり、ある人は永遠に続く学生寮存続への闘争でどうしようもないウォールに気づき心折れかけている。それはドラマの中の「絵空事」では済まされない。未来の私たちの姿なのかもとドラマはエンターテイメントと見かけの偽札の花吹雪の下で教えてくれる。

    そうしてドラマは今年のみならず毎年私たちの心にこうした何らかの波紋を与え続ける。さしずめフィクションの世界にいる彼ら彼女らは川に向かって石を投げ波紋を起こし続ける心優しきテロリストたちなのかもしれない。もしそうだったら私は彼ら彼女らは来年も疲れきったみんなの心に最後まで諦めないことや最後まで愛し続けてゆける指針をさしてほしい、または俳優・監督・脚本家そしてドラマに関わる方々は人生における一瞬の間あなたやわたしの心の中に向かって遠慮なく石を投げてほしい。そんな水しぶきが舞い飛ぶ河原の夕暮れの下で今年のドローンを着陸させるとしよう。また来年も今年のような良いドラマと出会えますように。

 

 

○2018年のドラマ十傑 

 

・anone(日テレ・1月期)

anone Blu-ray BOX

anone Blu-ray BOX

 

 

・アンナチュラル(TBS・1月期):脚 演

アンナチュラル Blu-ray BOX

アンナチュラル Blu-ray BOX

 

 

・弟の夫(BSプレミアム・3月放送):▲△

弟の夫 [DVD]

弟の夫 [DVD]

 

 

・獣になれない私たち(日テレ・10月期):脚

獣になれない私たち Blu-ray BOX

獣になれない私たち Blu-ray BOX

 

 

・コンフィデンスマンJP(フジ・4月期)

 

・dele(テレ朝・7月期)

 

・透明なゆりかご(NHK・7〜9月期):◎○△

透明なゆりかご DVD-BOX

透明なゆりかご DVD-BOX

 

 

フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話(NHK・10月放送):脚

 

・また来てマチ子の、恋はもうたくさんよ(tvk系・1月期)

また来てマチ子の、恋はもうたくさんよ Blu-ray・BOX

また来てマチ子の、恋はもうたくさんよ Blu-ray・BOX

 

 

・宮本から君へ(テレ東・4月期):●

宮本から君へ Blu-ray BOX
 

 

 (◎:作品 ●:主演男優 ○:主演女優 ▲:助演男優 △:助演女優 脚:脚本 演:演出)

 

f:id:ukikusajiro:20181229183737j:plain

(故・大杉漣は「バイプレイヤーズ」。田中圭は「おっさんずラブ」。永野芽郁は「半分、青い」。イッセー尾形は「未解決事件 容疑者Nと刑事の15年」。佐藤玲は「グッド・バイ」からの十傑作品候補外より選出) 

 

 

・2018年ドラマ主題歌賞:chara「せつないもの」(NHK・透明なゆりかご)


Chara「せつないもの」 1997 AKASAKA BLITZ